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12 OCT, 2020

新たな消費はサステナブルな社会を作るのか?

  • #Post CORONA
  • #安全安心の担保
  • #地球の持続可能性の確保
Credit :
  • Moderator: Nanae YAMAMOTO(Regional Revitalization Division, MRI)
  • Speaker: Yasunori KIKUCHI(Associate Professor, University of Tokyo)
  • Speaker: Takehiko SAITO(Executive officer, AEON RETAIL Co.,Ltd.)
  • Speaker: Hiroyuki TAKAHASHI(CEO, Pocket Marche Inc.)
  • Speaker: Katsura FUKUDA(Future Vision Center, MRI)
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新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、例えば応援消費と呼ばれるように、生産者や商品、店、企業、地域を応援するためにお金をつかう、店頭に行くかわりネットショッピングを活用するなど、様々な変化が見られています。
サステナブルの観点からは、どのような変化が起こっているのでしょうか?それを定着させるに何が必要なのでしょうか?サステナブルな地域エネルギーシステムの研究者である菊池先生、大手小売業イオンリテールの齊藤執行役員、生産者と消費者をつなぐ直販プラットフォームを提供するポケットマルシェの高橋代表取締役CEOと、サステナブルな社会への道筋を明らかにしていきます。

新型コロナは消費者の価値観・行動をどう変えたか?

山本 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、「応援消費」など新しい消費のカタチが普及しています。今後こうした新しい消費が定着するのではないか?それによりサステナブルな社会が実現するのではないか?そこで今回のテーマは「新たな消費はサステナブルな社会をつくるのか? 」としました。
まずは、イオンリテールの斎藤さんに伺いたいと思います。コロナ以降の消費者行動や購買選択の変化、背景にある価値観の変化をどう見ていますか。

斎藤 数字から明らかになっていることが幾つかあります。業界各社の月次の数字を見るとイオンを含む総合スーパー(GMS)ならびに食品スーパーの客数は、昨対90%前後で推移しています。ただし客単価が昨対110%を超えているため、売上は昨対100%を超えました。この数字から「来店頻度は減っているが、一回あたりの買い物点数が増えている」ことがわかります。
 消費者の行動変容についてもGW前にアンケートをとっています。家での過ごし方の変化を尋ねると「テレビを見る時間が増えた」「掃除や片付け、料理をする時間が増えた」との声が目立ちました。また「コロナ下で一番変わったこと」を尋ねると、男性の料理・自炊が非常に増えていることが分かりました。それも、その日食べるものを作るのではなく、「まとめて作る」。コロナを機に、消費者の行動は確かに変わっています。
山本 ポケットマルシェ( https://poke-m.com/)の高橋さんはいかがでしょう。消費者の変化を実感する部分はありますか。

高橋 コロナ前のポケットマルシェ(以下ポケマル)は苦戦していました。消費者が生産者とネット上で直接つながり、旬の食材を購入できることがポケマルの特徴なのですが、「生産者と直接つながるのは素敵だけど、食材を選んでいる余裕がない」「料理をする時間がない」という消費者の方が非常に多かった。
 しかしコロナで時間の余裕ができ、また外出できないストレスフルな状況下で、楽しみを食に求める人が増えました。結果、ポケマルの利用者は一気に4.2倍まで増えています。手間のかかる商品も売れるようになり、味噌作りキット、納豆づくりキット、なめこ栽培キットといったものも人気です。
 それから応援消費です。「どうせ買うなら出荷先をなくして困っている生産者から購入したい」と消費者が考えるようになっている。生産者とのコミュニケーションも生まれています。例えば、消費の前に漁師さんから「今、カニを発送しましたよ」なんて連絡がきたりして高揚感が味わえる。消費の後も「こんなふうに料理して食べました。ごちそうさまでした」と消費者が生産者に写真を送ったりして、余韻が残る。
 僕が思うのは、コロナで経済・社会が止まったことを機に「壮大な断捨離」が行われているということです。時間の余裕ができたからこそ、自分にとって何が大事で、何が大事でないのかを考えている。
福田 MRIの調査結果も紹介します。4月末から6月末にかけて生活者の意見を聞き、結果分かった消費行動の変化を「コロナにより拡大したもの—縮小したもの」、「コロナ終息後に需要度が増すもの—需要度が減るもの」という2つの軸で整理してみました。
 例えば今回の自粛生活下で、スポーツ、旅行、飲み会などの交際関係、化粧品やファッションなどオシャレ関係の消費が縮小しました。これらもコロナ終息後も縮小したままになるだろう「断捨離消費」と、終息後に再び拡大する「待望消費」に分かれると思われます。別のアンケート調査によると、コロナ終息後に一番したいことは圧倒的に「旅行」、次いで「外食・居酒屋・飲み会」、もうやりたくないことは「満員電車」「通勤」「不必要な飲み会」でした。品切れが報じられたマスクや消毒液などの「衛生消費」は、コロナが終息すれば消費も落ち着つくでしょう。テレワークにまつわる「テレワーク消費」や、家での時間を充実させる「巣ごもり消費」も拡大しましたが、こちらはコロナ終息後も一定程度残るだろうと期待されています。
 また別のアンケートでは「応援消費の増加」が裏付けられました。応援消費を行った人数はコロナ前に比べて約2.3倍に増加しています。その理由を尋ねると「(価格が安く)お得だから」との回答より、「生産者を応援したかった」の方が2倍程度多く、消費者の意識変化がうかがえます。

消費を通して得ているのは、商品だけでない

山本 菊池先生は消費者のこうした行動変容や価値観変容と、サステナビリティをどう関連づけていますか。

菊池 コロナが終息した後にも今の状態を維持すべきものと、元に戻すべきものとをしっかり考える必要があると思っています。成り行きに任せるのではなく、我々がしたいこと、欲しいものをしっかり考えるということです。例えば、オンライン会議は確かに便利ですが、初めて会った者同士がオンラインで信頼関係を作れるのかと言うと疑問です。「飲み会がなくなってよかった」と言いますが、そこで育まれていたものはなかったのか?消費も同じです。ネットショッピングが普及する一方で、例えば、子どもと一緒にスーパーに行くことで生まれる会話もあるわけですね。消費という行動を通して我々が得ていたものは、必ずしも商品だけではなかった。
 コロナはもちろん不幸な出来事ではありますが、起きてしまった以上は、サステナビリティを考える機会として利用することが大事だと思います。何をこのまま維持して、何を元に戻すのか。そうして「我々はこんなふうに持続可能な社会を作りたい」と決まってくれば、必要になる技術やシステムも自ずと開発が進んでいきます。

高橋 「オンラインのコミュニケーションだけでは信頼関係の醸成が難しい」というお話はすごく共感します。ポケマルはと言うと、コロナ前から生産者と消費者との間に「顔が見える関係」が出来ていました。するとどうなるか?「知っている人が困っていると助けたくなる」のが人間なんですね。小池都知事が会見で「感染拡大の重大局面」と呼びかけた次の日、東京のスーパーから食材が一瞬消えました。その時、東京のポケマルユーザーさんに全国の生産者から電話があったと言うんです。「食べ物がなくなったと聞いたけど大丈夫?何か送るよ」と。逆に、地方のトマト農家さんの所に段ボールが届いたと思ったら、中身はマスク。送り主は普段トマトを購入しているユーザーでした。
 まるで、親戚づきあいです。顔が見える関係は共感力を育みます。僕は「拡張家族」と言ったりするんですが、ポケマルが「地縁でも血縁でもない関わり」を生む場になっているのを感じます。

山本 ではスーパーはどうでしょう。例えば、緊急事態宣言後にスーパーから一部の日用品、衛生用品や食べ物が消えた時、消費者は空っぽの棚を見て生産者やサプライチェーンに意識が向くことはあったのか。

斎藤 サプライチェーンも含めた、もろいシステムがコロナで一気に崩壊しました。商品を調達できない、運べない、届かない。「ティッシュペーパーが品切れになる」といったデマにも踊らされました。こうしたもろさは何とかしないといけない。一方で発見もありました。例えば今、鯛が市場に余っています。料亭など飲食店に卸せなくなったからです。その鯛が我々スーパーに回ってきて、お客様には非常に喜んで頂いている。このタイミングだから出来たサプライチェーンです。

福田 正しい情報を伝えることは、人々の行動変容を促すためにも重要です。例えば、我々は「新もったいない」というキーワードを掲げています。「もったいない」は日本に古くからある価値観ですが、いま本当にもったいないものは何か?「使い捨て」は非難されがちですが、家電などは新しい製品の方が環境負荷が低いことがあります。本当の環境負荷を可視化して消費者に伝えれば、行動変容を促せるかもしれません。あるいは、ブロックチェーンなど高度な技術の発展により、スーパーで売っている商品から流通過程のあらゆる情報が分かるようになったらどうなるか?食品ロスも減るでしょうし、「環境負荷のより低い消費を買う」など、消費者の行動変容につながるだろうと思います。

菊池 生産者と消費をつなぐ情報という意味で思うところがあります。都市部の人が知りたい情報と、生産現場が知ってもらいたい情報が結構違うんです。例えば、すごく蜜の入ったリンゴを当たり前のように食べている生産者さんがいる。「すぐ腐ってしまうから東京には出荷できない」と言うのですが、東京の人間はまずそのリンゴの存在を知りません。逆に、商品を買う消費者には、商品を作る過程で生産者がどれだけ手間をかけているのか伝わっていない。また、消費者が知りたいと思ってもその情報にアクセスできないことが多い。生産者が発信する仕組みと、消費者が知る仕組みの両方が必要です。

山本 イオンはこれまで、持続可能な調達やカーボンフットプリントなど、商品のサステナビリティに関連する様々な情報を消費者に届ける取り組みをしてきましたね。

斎藤 魚についてはMSC(海洋管理協議会)やASC(水産養殖管理協議会)の認証商品を取り揃えていますし、グローバルGAP(適正な農業実践の国際基準)の認証商品も自分たちで作っています。今年の夏は長雨と高温の影響で野菜が高騰するなど、生産がままならない部分もありますが、この流れが止まることはないしょう。今後どれだけ違う商品群まで広げていけるのか、いま議論しているところです。

「顔が見える関係」が、サステナブルな消費を促す

山本 サステナブルな消費を促すには、どのような取り組みが必要なのでしょう。

高橋 生産者と消費者側が直接結びつくだけで、十分にインパクトがあると僕は思っています。戦後の貧困脱却の時代、一次産業に求められたのは大量に安く同じ規格の商品を供給することでした。当然、オーガニックも「生産者の想い」も求められない。生産と消費は分断され、消費者の都合に生産者が合わせていました。それは貧困脱却の時代には合理的なシステムだったと思いますが、年間650万トンも食料廃棄している飽食の時代になっても、同じシステムを引きずっているのは問題です。安定供給のために漁師は魚を乱獲し、農家は化学肥料を撒かざるを得ません。
 生産者と消費者が直接結びついて、顔が見える関係になれば、変わります。顔が見える消費者のために良いものを作りたくなるのが生産者ですし、生産者の手間を思えばスーパーより多少値段が高くても買おうと思うのが消費者です。
 そしてこれからは、消費者が生産者に合わせていく時代だと思います。僕は「不安定供給バンザイ」といっている。これだけ食料廃棄が多いのは、食料にありがたみがないからでしょう。逆に不安定供給にしたら、希少価値が生まれるはず。実際、秋田県に「魚が獲れたら出品する、獲れなかったら出品しない」漁師がいますが、ポケマルユーザーはそれも楽しんでいますよ。「獲れたらいいね」という感じで。

斎藤 イオンでは、漁港に揚がった魚を詰めたトロ箱を1つ3,000円〜5,000円で売り出したことがあります。どんな魚が入るか分からないんですが、これがあっという間に売り切れちゃうんですね。「不安定供給」の例だと思います。私たちも取り組みを続けていきたい。

山本 残念ながら座談会終了のお時間が来てしまいました。最後に福田さん、ラップアップをお願いします。

福田 どうしたらサステナブルな社会がつくれるのか。一つには、コロナという機会を上手く活用することですね。そして、生産に合わせた消費を展開すること。それには技術の他、消費者の行動変容を促す施策も必要です。そして、人のつながりです。「顔が見える関係があると、生産者は良いものを作ろうと自然に思うようになる」というお話は印象的でした。
また、消費者側も商品がなかなか届かないことまで含めて楽しめるようになるとのお話。そうした生活を「豊か」とする価値観を醸成するためにも、技術や教育、情報提供など様々な方策があるはずです。M50研究でもさらに深掘りしていくつもりです。ありがとうございました。
  • Moderator: Nanae YAMAMOTO(Regional Revitalization Division, MRI)
  • Speaker: Yasunori KIKUCHI(Associate Professor, University of Tokyo)
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