Update :

4 NOV, 2020

「医師と患者の信頼」が未来の医療を拓く

  • #Post CORONA
  • #健康維持・心身の潜在能力発揮
Credit :
  • Tomoyuki Suzuki (Senior Consultant, Future Co-Creation Division, MRI)
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オンライン診療をテーマにした座談会「まちのお医者さん2.0」では、コロナ禍におけるオンライン診療利用の実態から、今後の普及に向けた課題、医療のDXに対するソリューションまで幅広い議論が行われた。本コラムではオンライン診療のカギのひとつとして挙げられた「医師と患者の信頼」について考察する。

鈴木 智之

三菱総合研究所 未来共創本部 主任研究員

医療・ヘルスケア領域を中心に、未来社会研究や社会課題・インパクトの調査・分析に携わる。新規事業開発、研究開発マネジメント、リスクマネジメント、データ分析等の分野で官公庁および民間企業のコンサルティング実績を有する。リハビリテーション向け身体機能見える化サービス「モフ測」の元事業開発マネージャー(2016-19年)。元スタンフォード大学米国アジア技術マネジメントセンター客員研究員(2015-16年)。

オンライン診療の現在地

 2020年4月より初診から利用可能となったオンライン診療は、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)対策の一環としての時限措置であり、3ヶ月おきにその継続について検証が行われている。前回の検証は8月6日に「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 ※1」で行われ、4~6月の振り返りを踏まえて当面は現状継続とされた。 

時限措置は「感染が収束するまでの間」継続するものとされており、具体的には「患者が安心して医療機関の外来を受診できる」頃を目安とすることが議論されている。一方で菅総理大臣が10月26日に行った所信表明演説 ※2では「デジタル化による利便性の向上のため、オンライン診療の恒久化を推進」すると言及された。COVID-19への対策という文脈とは別に、医療のオンライン化は未来の大きな潮流となりつつある。

一方、足元のオンライン診療の実態をみると、まだ対面の診療の代替には至らない。 座談会でも指摘されたが、技術的な制約から触診・聴診・顔色の確認などが行いにくい課題があり、診療科によっても向き不向きがある。また、それを補って患者と向き合うには診察時間を長めに取る、再診などのフォローアップを細かく入れる、などの追加コストも生じる。やはり対面の方がいいという患者も多く、COVID-19の収束に伴ってオンライン診療の利用者は減少しているというデータも報告された。

しかし潜在的な期待としては、一般市民の6割超がCOVID-19の収束後もオンライン診療の活用に前向きという調査結果も示されている ※3。オンライン診療に関連する技術やサービスにも注目が集まり、非慢性期の患者も含めて多くの人がその存在と利便性を知り、期待を寄せるようになったことは大きな変化といえる。

医師と患者の信頼関係をいかに作るか

オンライン診療は今後大きく伸びていく分野だが、技術だけ整えば社会に普及するものでもない。カギの一つは医師と患者の信頼関係である。在宅勤務で、対面で会ったことのない顧客やパートナーとの関係構築に苦労やもどかしさを感じている方も多いだろう。クリニックの医師と患者の関係にも同じことが言える。

信頼関係の不足は、派生して新たな課題を生み出す可能性がある。例えば、今までと異なる薬を処方されたときに、医師の意図が伝えきれず患者が不信を抱くかもしれない。自分に心地よい対応をしてくれる医師を求めてクリニックを渡り歩く「ドクターショッピング」を助長する可能性もある。また、医師にとってもクリアな判断が難しく、総合病院などへの受診勧奨を促すケースが増えれば、医療機関のリソースが圧迫されることも考えられる。

課題の派生を防ぐには、オンラインの初診であっても医師と患者の信頼関係を作れるような仕組みが必要である。技術的には感情を分析して表示するAIなど、テレワークの進むビジネスの分野で先行的にソリューションが作られ、医療の分野にも導入されていくだろう 。技術以外の側面では、英国のプライマリ・ケアの例にならい、健康に関するあらゆる相談ができる医師と患者の関係を、日常的に作る方法も一つのアイデアである。病気になってからかかる医者を探すのではなく、いつでもどんな相談でもできる家庭医、という仕組みを日本にも作るイメージだ。

withコロナ、ポストコロナの世界では、日常と災害が共存する。災害はある日突然やってきて去っていくのではなく、日常と行ったり来たりしながら、我々の生活とともにある存在となる。日常と災害の2つのフェーズを垣根なくつなげようというコンセプトはフェーズフリー ※4とも呼ばれる。オンライン診療はCOVID-19の感染拡大のような災害時にも有効な技術であり、家庭医のような制度はこれを機能させる信頼関係をあらかじめ構築する、フェーズフリーの仕掛けになりうる。

医師と患者の信頼を築く新たな方法の開発は、オンライン診療の普及を後押しし、課題の派生を抑制するカギである。
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以下、参考文献。

  • Tomoyuki Suzuki (Senior Consultant, Future Co-Creation Division, MRI)