Update :
10 FEB, 2022
誰もが受けたくなるがん検診とは?
- #Post CORONA
- #健康維持・心身の潜在能力発揮
- Moderator: Yoshihisa NISHIMURA (Innovation Service Creation Division, MRI)
- Speaker: Masayuki TATEMICHI (Professor/Tokai University, School of Medicine, Department of Preventive Medicine)
- Speaker: Shiho AZUMA (President & CEO/Lily MedTech Inc.)
- Speaker: Reiko YOSHINO (Registered nurse/Corporate Division, MRI)
がん検診が身近なものになりきっていない
西村 議論の土台として「Health FLAP」というモデルを用意しました。これはFind-Learn-Action-Performというサイクルを回すことで、個人の自発的な行動の進化をエンパワーメントできるのではというものです。簡単に説明すると、Findは自分の体の状態を知ること、理想の状態とのギャップに気づくことです。Learnは健診・検診や病気に関する正しい知識を得ること。Actionは生活習慣を改善することや必要な健診・検診を受けること。そして、Performは健康で元気に活躍する、がんを早期に発見し早期に復職することです。このサイクルが回れば、結果的に、必要なタイミングで能動的に検診を受ける、健康管理をするといった個人の自発的な行動につながる。私たちはそう期待しています。しかし、ステップの内容とつながりには様々な課題があります。例えば、Learnのステップではがんという病気自体の理解が進んでいないこと。三菱総研とLily MedTechの共同アンケート調査でも、乳がんでないにも関わらず「精密検査が必要」と判断される偽陽性が多いこと、がんの具体的な治療法が知られていないことなど、リテラシー不足が明らかになりました。東さん、立道先生、どう思われますか。
東 特に課題だと思ったのは、多くの方が「継続受診していない」ことです。乳がんに罹患しやすい40代から60代の女性のうち16%が「過去に乳がん検診を受けたことがない」と回答しました。逆に言うと「過去に一度以上、乳がん検診を受けたことがある」方が80%以上いるわけですが、これも全員が毎回受けているわけではありません。継続受診できていない理由は、端的に「がん検診が身近なものになりきっていない」ことだと思います。若い芸能人の方が乳がんに罹ったというニュースの後、検診率が一時的に上がることがあります。でも、その数字もすぐに元に戻ってしまう。
立道 多くの人にとって、若くしてがんになるというのはドラマの世界のことで、自分が当事者になると想像できないのかもしれませんね。ただ、統計的にみれば65歳までに7人に1人の従業員が何らかのがんに罹る時代です。がんは誰もが罹る可能性がある病気だという認識は持つべきだろうと思います。合わせて強調したいのは乳がんや子宮頸がんなど、若い女性が罹るがんは予防できるし、早期発見により治療できるものだということです。特に会社で働き盛り、家庭では子どもの教育費負担があるなど、社会的インパクトが大きい若い世代のがんを早期発見・治療することは重要だと思います。また、誰もががんに罹る時代ですが、一度目のがんを早期発見~早期治療でうまく乗り越えれば、二度目のがんに遭遇する確率は低くなります。もちろん再発するケースや体質的にがんになりやすい人もいるわけですが、多くの方は一度目を早期発見、早期治療しておけば、就業可能年齢のうちに再びがんに罹患する確率は下がるんです。
西村 やはり、検診による早期発見が重要だと。その点、三菱総研がどんな取り組みをしているか、吉野さんにご説明いただきます。
吉野 女性社員に面談すると、女性がんへの関心は高いです。ただ、だから積極的にがん検診を受けるかというとそうではない。仕事や育児が忙しいから、がんが発覚するのが怖いからと、検診を受けない理由がたくさんあるからです。受診率を手っ取り早く高めようと思ったら、事業主の安全配慮義務として年一度行われる定期健康診断に「がん検診をくっつける」のがいい。しかし、当社の場合は定期健診の施設と乳がん検診や子宮頸がん検診を受けられる施設が別の場所なので、それだけでも受診率が下がる理由になります。そんな女性たちに私から話すのは、やはり「自己管理によってがんのリスクを減らせる」ということですね。がんは運の要素も強い病気ですが、それでも自然災害などと違い、避けられる病気でもあります。それから「会社員の死因の半分はがんで、働く世代の自殺を除く病気死亡の9割はがんである」「深夜勤務をする女性は乳がんのリスクが高くなる」「それでも、早期発見・治療をして職場復帰を果たしている人がこんなにいる」といった事実も伝えています。
西村 がんのリスクと検診のメリットを社員に理解してもらうのは、制度的な課題ですよね。立道先生が取り組んでこられた「マイ検診プラン」もご紹介いただけますでしょうか。
立道 がん検診を単年度で受ける、受けないと決めるのではなく、10~15年という期間の中で考える。特に自分の将来設計と合わせて、この年齢ではこのがん検診、喫煙していればこの検診、深夜勤務が多いからこの検診と人それぞれのリスクに応じた行動を医療職と一緒に考えます。「この時までは子どもが小さいし、特別により詳しい検診を受けて、がんでQOLを害さないようにしたい」「この年齢になったら、それ相応の検診にしよう」「この検診にはこんな弊害があるのだな」など、それぞれの人生プランに合わせて、検診のメリット・デメリットを共有するのがマイ検診プランです。特に、ご自身の生活習慣のリスクを知っていただき、それを変容していただくことがそもそもの目的です。私は、従業員が集まり、がんを含めた健康の問題を皆で楽しく話し合いながら、自分が受ける検診を決めていきましょうというスタイルを実践してきました。これが結構、白熱するんですね。他の会社もそんなふうに従業員ががんと向き合う時間を設け、議論できる機会を作ってもらえるといい。私を含めた産業医が議論をファシリテートできればと思います。そもそも日本人のがんリテラシーが低いのは、定期健診や特定健診などが法律で定められている弊害もあると私は考えています。逆説的な言い方になりますが、健診制度があるために、積極的に「どんな検診があるのか」「検診でカラダのどんなことが分かるのか」などの知識を得ないまま済んでいるわけです。一方、欧米諸国では健診制度がないにも関わらず、乳がん検診や子宮頸がん検診の受診率が7〜9割にも達しています。これはがん検診を受ける人のリストを自治体レベルで作り、全員に電話をかけ、受診勧奨しているから。精密検査が必要ならドクターにも勧奨し、実際にがんが見つかったかどうかまでしっかり追いかけます。ここは、日本と諸外国の大きな違いですね。日本は健診が義務化されてはいますが、がん検診を誰かに「ぜひ受けましょう」と勧められるわけではないし、どんな検診が良いかといった情報も足りません。そのあたりの理解を会社の中でも促していく必要があると思っています。
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がん検診の精度と不満をテクノロジーが解決
東 少なくとも、現在、乳がん検診で最も普及しているマンモグラフィーの、痛みと被曝が伴うという課題を解消したいと考えています。三菱総研と共同で行ったアンケート結果でも、80%以上の方は「マンモグラフィーを受けたことがある」と回答しました。しかし、多くの人は「また受けようとは思わない」と。その気持ちは本当によく分かります。私自身、マンモグラフィーを受けた時にはびっくりするぐらいの痛みを感じましたから。せめて、マンモグラフィーの必要性を理解した上で、痛みもなく、ただ寝転がっているだけという体験ができないなら「また受けてもいい」と思わないのではないでしょうか。また、全体の乳がん患者の半分が自己発見によるものであり、30%の方が検診で自覚症状がない状態で発見されていることが分かっています。この30%という数字も上げていかないと。
西村 痛みを伴う検診をわざわざ受けるはずがないと。その気持ちにも応えていく必要がありますね。
東 立川市の「行動科学理論とソーシャルマーケティング手法の融合による行動変容の研究」で、3236人を調査したところ、2年以内のがん検診非受診者のうち、「乳がんが心配」と答える方が15.6%いたそうです。がんが怖いのに、検診を受けない人がこれだけいるんです。30〜40代の女性にとっては健康でいるのが当たり前で、日常生活の中で苦痛を伴う経験をすることはまずありません。そして、実際に検診を受けても大半の人はがんが見つからない。多くの人にとって、がん検診は健康を確認するためだけの検診になっています。なのに、苦痛を伴うというのはどうなのかと。付け加えるとマンモグラフィーには「乳腺が発達した女性に対して感度が下がる」という問題もあります。つまり、苦痛に耐えて検査を受けたのに「分からない」という結果をもらうことがある。これで「サービスとして成立しているのかな?」というのが正直な感想です。当社が開発する画像診断装置に、超音波技術を採用したのも乳腺の発達に影響を受けにくいからです。
「健康」は誰のものなのか?
- Moderator: Yoshihisa NISHIMURA (Innovation Service Creation Division, MRI)
- Speaker: Masayuki TATEMICHI (Professor/Tokai University, School of Medicine, Department of Preventive Medicine)
- Speaker: Shiho AZUMA (President & CEO/Lily MedTech Inc.)
- Speaker: Reiko YOSHINO (Registered nurse/Corporate Division, MRI)
#健康維持・心身の潜在能力発揮
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