RRIの3つのポイント(MRI作成)

Update :

11 NOV, 2020

科学技術を未来へつなぐ「責任ある研究・イノベーション(Responsible Research and Innovation)」

  • #Post CORONA
  • #新たな価値創出と自己実現
Credit :
  • Tomoyuki Suzuki (Senior Consultant, Future Co-Creation Division, MRI)
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身体拡張とバリアをテーマにした座談会「身体と融合するテクノロジーは「バリア」をなくせるのか?」では、技術革新が社会を変えていく可能性から、デザインや価値観変容の重要性まで幅広い議論が行われた。本コラムではバリアをなくしていくカギのひとつとして挙げられた「既存の社会インフラやルールを疑う」ことに関連して、EUで開発されたRRIの概念を紹介する。

鈴木 智之

三菱総合研究所 未来共創本部 主任研究員

医療・ヘルスケア領域を中心に、未来社会研究や社会課題・インパクトの調査・分析に携わる。新規事業開発、研究開発マネジメント、リスクマネジメント、データ分析等の分野で官公庁および民間企業のコンサルティング実績を有する。リハビリテーション向け身体機能見える化サービス「モフ測」の元事業開発マネージャー(2016-19年)。元スタンフォード大学米国アジア技術マネジメントセンター客員研究員(2015-16年)。

科学技術が社会を変えるために必要なもの

科学技術には社会を変える力がある。そのことに異論の余地はない。蒸気機関、電気、インターネットなど、技術革新は人間社会を大きく変容させ、今日の形を作り上げてきた。しかし 座談会の議論でも浮き彫りとなったのは、目指されている未来の姿が、ステレオタイプな大衆、既存の社会インフラやルールに引きずられた狭い社会像ではないか、という違和感であった。

未来に生きるのは一括りに語れる大衆ではなく、一人一人異なる個性をもった個人である。個性を表現する要素には、性別、国籍、人種、年齢、こどもの有無、障害の有無、嗜好など個人に帰属する要素と、経済、住まい、家庭、就業、学習、社会とのつながりなどの環境に帰属する要素がある。そのさまざまな違いについて多様性を認め、支えあいながら共に活躍できる社会を描くことが必要だろう。さらには、個人と個人が協調して暮らす社会がどうあるべきか、ともに議論する場も重要になる。 

科学技術の発展は行動の選択肢を広げるが、その選択肢を選ぶのは人である。社会は人の選択によって形作られていく。そうであるなら、よりよい社会を作るためには、よい選択をする人を、あるいは、よりよい選択肢を提示する人を増やし、議論を交わすことが必要だ。こうした方法論は、「科学技術の社会実装」として研究が進められている。

EUで普及するRRIの概念

RRIの3つのポイント(MRI作成)
科学技術の社会実装を進めるフレームワークとしてEUで開発されているのが、「責任ある科学・イノベーション(Responsible Research and Innovation。以下、RRI))」という概念である。日本の科学技術基本計画に相当するEUのHorizon2020(2014~2020)において、重点分野のうちの1つとして、7年間で約500億円を投じた研究開発が行われている。

RRIのポイントは次の3点である ※1

1つ目は、社会での活用が目指される科学技術、イノベーションのタネに対して、実現されるべき「未来における適切なインパクト(right impacts)」を検討することだ。ここで、誰にとっても適切なインパクト、は定義できないという認識が出発点である。個人は多様性を持つ存在であり、何が適切かは一人一人異なる。

そこで、適切なインパクトをめぐる議論に多様な個性を持つ個人が参加するプロセスを持つことが重要になる。これが2つ目のポイントである。幅広い参加者が議論し発信する仕組みを整備し、実践していく。この実践においては、経済や社会等の変化を予測し、不確実性やリスクについて検討し、開かれた議論の場で検討していくことが重要である。

3つ目のポイントは、適切なインパクトの実現に向けて生じる様々な課題の解決を、もととなる科学技術の研究者に委ねるのではなく、将来関わりを持つ様々なプレイヤーで分かち合うことである。プレイヤーには研究者、企業、政策立案者、教育者、市民を含み、今から何ができるか?をそれぞれが考えて現在の活動に反映する。例えば再生医療は新たな治療方法として注目されているが、将来起こりうるその副作用に対して再生医療の研究者に「なんとかして」と言うのではなく、法整備を行う行政、製品として販売する企業、理解し利用する市民などが、一緒に議論する中でそれぞれの責任意識をもち、先駆けて対応に取り組んでいく姿勢をもつ、という考え方となる。

RRIの考え方は企業活動にも通じる。例えば、がんを腫瘍が小さな段階で早期発見する技術が開発され、販売されている。しかし使い方によっては、検診で見つかったのが実は進行が遅いがんで、寿命がくるまで手術する必要がないものだった、というケースもありうる。しかし、見つかれば手術等で取り除くことが一般的で、身心や経済の負担が生じてしまう。新しい技術でとにかく早く見つかればよいというのではなく、派生して生じる課題も含めて先手を打った対策が必要なケースだ。

目指す社会の在り方を多様な参加者によって検討し、それぞれが責任意識をもって対策を実践する。RRIの概念を踏まえたプロセスの浸透は、既存の社会インフラやルールを乗り越えた未来を作るカギのひとつである。
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以下、参考文献。

  • Tomoyuki Suzuki (Senior Consultant, Future Co-Creation Division, MRI)