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21 MAY, 2021

【質疑応答編】領域をまたぐトライセクター(官・民・市民社会)の可能性とは?

  • #新たな価値創出と自己実現
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  • Moderator: Anna ARAKI(Social Safety and Industrial Innovation Division,MRI)
  • Speaker: Seiichiro KAKOI(CEO, Publink Inc.)
  • Speaker: Yoko KAMIMURA(Chief Evangelist/ Community Designer, SUNDRED Corporation)
  • Speaker: Masanobu TABATA(Chief of Encouraging the Challengers, the Planning and Finance Division, Yokoze Town)
  • Speaker: Kentaro YAMAGUCHI(Smart Region Division,MRI)
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社会をよりよく変えていくには、官・民・市民社会の3つの領域(=トライセクター)の連携が欠かせません。個人の活動をベースにスモールスタートかつスピーディな連携が必要だと言われています。こうした個人の活動をキャリアの仕組みと働き方の両輪で捉え、受け入れる組織側への改革も含めて提案するために何が必要となるでしょうか。本座談会では官・民が融合したフラットなチームにより社会変革を目指す第一人者、新たな発想でチャレンジの場を提供する自治体、組織を越えて多方面で活躍する方と共に、社会をよりよく変えていくための個人の活動、働き方やキャリア、組織の仕組みについて問題提起を行います。

Q. 個人が社会やコミュニティの一員だと意識を高め、社会参画を促すにはどうすれば良いか?

栫井 自分が意識を高めなくてはいけない、社会参画しなければならないと思う必要は全くないと思います。どんな人生にしたいか、どんな日々を送りたいか、自分の内発的動機に向き合うことが大事で、それが見えた時、それに合うコミュニティや社会参画の形が結果として見つかるのではないかと思います。
上村 まさにそう思います。私も周りは意識の高い人ばかりに囲まれているのですが、自分自身、元々はもっとポケッと生きていました。どんな人生にしたいの?未来にしたいの?と考えるきっかけや機会を周りの人と触れることで得て、影響されました。それにより、自分がいい人生にするには、周りと社会全体を少しでも良くしようとつながっていったのです。忙しく仕事に生きる日本人には特に、まず「これからどんな人生を送りたいの?」と考えるきっかけをたくさん与えていければ、自分の参加できる範囲で良いから、社会参画が必要だということに気づいていくと思います。
山口 私も基本的に栫井さんと同じ意見です。ただ、私は人見知りです。という前提で、一つ具体的に答えてみるなら、社会人向けの大学院に身を置いてみてはいかがでしょう。それ自体をハードルだと感じる方もおられると思いますが、「ある程度強制的に型にハマってみる」という提案です。私は先日まで、一回り以上年下の若い男性とお孫さんがいる年上の女性と同じゼミで学んでいました。他にも、ゼミは違いましたが、メディア、ファッション関係、美容関係、政治家など当社ではあまり議論する機会のない人たちもいました。半強制的に自分を型にはめてみなければ、私から進んでコミュニケーションをとることは一生なかった人たちです。異分野の人、世代の違う人ってこんなに見えている世界が違うのかと思うと同時に、共有できるものもあるということに驚きました。自分とは全然違う人たちに触れた時に、初めて個人としてのビジョンが相対化され、仕事とか関係なく取り組んでいこうと思える一生モノのテーマを創ることができました。

Q. 今あるセクターを越境し、どのようにセクターを再構築、あるいは概念自体の再定義を目指すべきでしょうか?

  栫井 「組織のための個の時代」から「個のための組織の時代」へと変革期にあると思います。そのため、何らかの層に各人が所属する包含関係ではなく、各人が有機的にアメーバーのようにつながる(1人で複数のセクター・組織・コミュニティに属してもいい)、また、つながるための何らかの共通軸(同質性・共感・目的)として、多様な価値観が認められる社会になっていくと思います。
上村 栫井さまに、大変共感。
 

Q. セクターを超えるところに、まずハードルがあるのでは?

  栫井 セクターを行政/企業/大学/市民・・という前提で話すと、たしかにハードルは現状、存在すると思います。文化も人の志向性も言葉も価値観も慣習も違ったりするので、そこへ急に立ち入ると、ある種、外国人のような扱いになります。大事なことはセクターや肩書き、仕事のことから話すのではなく、お互いが個人として向き合うこと(趣味や出身地、どんな時に喜怒哀楽が出るかなど何でも)が大事で、そうするとお互いに仲良くなれます。

Q. 地方自治の中に次世代や若手の考え方と取り組みをどのように取り込んでいくか?成功の秘訣や事例は?

  田端 横瀬町で若手の考え方などを上手く取り込んでいるかと言われると、まだまだですが・・なんだかんだで若手も役場に長いこと勤務すると前例踏襲のワナにはまり、新しい考えや気づきが少なくなってきているように思います。そのような中で今回のようにイベントなり、様々な関係者が集まる場に何度も顔を出すことで、多くの気づきや新しい発想が生まれてくると思います。民間、市民町民、行政、それぞれの立場の人の意見をインプットすることで、より実社会にあった考え方と取り組みが発生してくると思うので、若手にはドンドン外に出るよう言っております。また、それらの意見を取り入れるためには、組織という大きな枠組みの前に、私自身は小さな成功事例を積み上げていくことを意識しています。若手には考え方とそれを実行する方法(アイデアではなく、アウトプットまでの流れ)を何度も提案するよう伝えています。とは言え、簡単に上司が取り入れることも少ないのですが、それでも腐らず(提案を受け入れない上司が悪いのではなく、上司を説得できない資料が悪いのでは的な)、何度でも提案をさせます。仮に3度負けても、最後に勝てばいいのでと。一番のネック(躓きやすいポイント)は上司側にあると思いますが、若手にはチャレンジする機会を作ってあげることが必要です。ある程度の失敗は許容範囲にしてチャレンジさせるように普段の心がけが必要だと思いますが・・これがなかなかできない上司が多いです。ただ、上司のせいにし始めると上司へのクレームしか生まれず、前向きな提案ができなくなるので、腐らず熱意をもって提案し続けることが一番大事になってくる気がしています。本来は組織がチャレンジしやすい環境を作るのが一番の近道だと思いますが、それほど簡単なことではなく、大きなことから始めると恐らく前に全然進まないと考えれば、やはり個の意識改革からアクションへ、これの繰り返ししかないと思います。成功した事例はありませんが、横瀬町の場合、官民連携「よこらぼ」の数をこなす必要があることから、自分も含めて、若手と共にたくさんの判断と実行が、それも高速に繰り返されています。誤解なきよう伝えると、仕事を山ほどすればよいという量的な意味ではなく、行政が一番苦手であるスピード感を持つことで、若手の考え方を強引にでもひっぱり出していると感じています。
上村 オープンイノベーションの考えではないですが、若手が持っているものと持っていないものを考えてみること。活力や未来への希望などを果てしなく持つ彼らと、人脈や組織の力などを持つ大人たちがどうやったらお互いWin-Winになれるかを考えてみるといいと思います。そのための第一歩は「対話」です。デジタルネイティブな彼らの価値観を理解しようとする姿勢を、若い人は見ています。

Q. 地域で街づくりの活動をする人に、個人としてどう自己紹介するか?ギャップを感じ悩んでいます。組織の自分を紹介するのではなく、自分のことを話さなければいけない

  田端 自分の場合は役場という地域に近いポジションなので、役場職員であることはちゃんと伝えます。大事にしていることは「役場で○○の仕事をしているので、何かあれば」ではなく、「自分は役場なので、困ったことがあれば何でも」と必ず言うようにしています。状況により方法は変わるかも知れませんが、組織の肩書はほぼ意味を持たないと思っていて、今回も「チャレンジする人を応援する係長」という肩書で出ましたが、実際はそんな係長の職はなくて、本来は「副主幹」という町民や名刺交換先にとってはどうでもいい役職です。名刺には毎回、今の自分が心掛けていることを肩書っぽく書いています(その前は「マキコミマイスター」)。自分の心意気をそれ風に書くことで興味を持ってもらい、変わった役場の職員であることを意識づけするためです。役場は堅いイメージなのに・・という点を狙うことで格段に広がっていきます。つまり自分は意識して、別の意味でギャップを出しています。

Q. よこらぼに協力して下さるのはどのような方々でしょうか?効力感を持っていただける点が共通要素かと思いますが

  田端 「何か自分の力で社会を変えたい」と思ってくれる方々は多いです。会社のポジションとして新たなビジネスを始めなければという新規ビジネス部門の方もいらっしゃいます。そういう方は会社のバックアップがあっても長続きしないことが多く、逆に自分のやりたいことをやる、面白いことをやりたいって方は長く続いている傾向があります。確かに、効力感をお持ちの方は多いかもです。結局「しなければならない」は重荷になりますが、「やりたい」と思う人をできる範囲で応援する。それがよこらぼらしさです。横瀬町の場合、官民連携では町から予算的バックアップが望みにくく、逆にチャレンジしやすい環境づくりが特長です。役場と住民の協力体制や行政との実績など、いち早くリリースするためのスピード感を求めてくる提案者が多いように感じます。

Q. スマートシティやAIを活用した取り組みについて、セクターを超える連携方法などを聞きたいです

  山口 中島健祐『デンマークのスマートシティ: データを活用した人間中心の都市づくり』(学芸出版社、2019)などを拝読すると、そもそもの民主主義の成り立ちが海外と日本では異なっている点が、日本でスマートシティが上手くいかない根っこなのではと思います。昨年、日本でも役立つ異分野間の連携方法を模索するため、若手にオランダのアムステルダムで実現しているスマート防災の事例調査に行ってもらいました。調査して2点使えるかなと思いました。1つ目は「広報・パブリックリレーションズ(PR)スキルの公共的活用」。上村さんも議論で触れられていたことです。アムステルダムのスマート防災の支援チームには、コミュニティストラテジストとインフォメーションストラテジストがいました。日本でも一部民間企業が有するこのようなB2Cの専門スキルを、G2BやG2Cへと公共分野に活用してみてはどうかと思います。この際の問題は行政などが広報/PRにお金を出せるかという点かなと思います(意識面、制度面ともに)。2つ目は「バウンダリスパナ(境界を越えて組織・個人をつなぐ人)の常駐」。これもアムステルダムの実例です。市役所に常駐し、ある課題を認識すると、それを解決するために協力すべき複数の部署どうしを引っつけることを専任としてやっているそうです。実はこれもよく知られていないだけで、日本でも一部のコンサル会社などがやっていることだと思います。神戸市役所では同様の人材を市役所内で育成し始めたと聞きます。このバウンダリスパナのスキルを組織の外から調達しなくてはならない「特別なスキル」ではなく、普通の管理職なら誰でもできるように知識化し普及していく。その辺りは弊社のような会社の仕事なのかなと思ったりしています。
上村 山口さんのお話、とても学びになります。スマートシティに関しては、まず何でもデジタルにしようと考えなくていいのです。技術視点ではなく、どんな都市や町でありたいのか。これを住む人、支える人、制度を作る人でディスカッションしていく。そして、それを叶える最新技術を集結する。PRや広報活動はその意味でも重要です。参加したいモチベーションにもかかわります。昔ながらの方々に任せるのではなく、次の時代にどのように伝えるかを考えられる専門スキルの方を積極採用していくのもいいですね。民間と公的機関の融和はもっと進んでもよいと感じます。日本は一方的なコミュニケーションのイメージがあります。AIはデジタル技術の一部ですし、全セクターにも産業にも適応されると思います。サプライチェーンのどこに活用するかで、セクターは簡単に跨げるでしょう。

Q. 上村さんへの質問です。利益相反にはどう対応を?

  上村 基本的には対話を続け、エコシステムにおける役割分担をしていきます。SUNDREDが開発する「新産業共創プロセス」は、前半部分はソーシャルイノベーション的に、社会が求める新しい目的や解決すべき課題、そのためのエコシステムの絵姿についてオープンかつフラットに対話し世界観から具体的なイメージまで摺り合わせをします。ここで役割分担のかなりの部分はクリアになっていきます。その後、問題が生じれば、都度「対話」を行っていくスタイルです。SUNDREDは新産業のアクセラレーターとして、ステークホルダーとなる多くの企業や組織のメンバーが参加するプロジェクトをファシリートしています。新産業における事業機会や投資機会、将来期待される利益をどう分け合うかは確かに個社にとって大きな関心事ではありますが、これから生まれてスケールしていく新産業の限られたパイの取り合いというよりも、各社が役割分担をしながら一緒に一つの作品を共創しているというイメージです。そもそも足りない役割ばかりですので、各社の利益相反がクリティカルな問題になるということは殆どありません。
  • Moderator: Anna ARAKI(Social Safety and Industrial Innovation Division,MRI)
  • Speaker: Seiichiro KAKOI(CEO, Publink Inc.)
  • Speaker: Yoko KAMIMURA(Chief Evangelist/ Community Designer, SUNDRED Corporation)
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  • Speaker: Kentaro YAMAGUCHI(Smart Region Division,MRI)

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