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20 APR, 2021

領域をまたぐトライセクター(官・民・市民社会)の可能性とは?

  • #新たな価値創出と自己実現
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  • Moderator: Anna ARAKI(Social Safety and Industrial Innovation Division,MRI)
  • Speaker: Seiichiro KAKOI(CEO, Publink Inc.)
  • Speaker: Yoko KAMIMURA(Chief Evangelist/ Community Designer, SUNDRED Corporation)
  • Speaker: Masanobu TABATA(Chief of Encouraging the Challengers, the Planning and Finance Division, Yokoze Town)
  • Speaker: Kentaro YAMAGUCHI(Smart Region Division,MRI)
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社会をよりよく変えていくには、官・民・市民社会の3つの領域(=トライセクター)の連携が欠かせません。個人の活動をベースにスモールスタートかつスピーディな連携が必要だと言われています。こうした個人の活動をキャリアの仕組みと働き方の両輪で捉え、受け入れる組織側への改革も含めて提案するために何が必要となるでしょうか。本座談会では官・民が融合したフラットなチームにより社会変革を目指す第一人者、新たな発想でチャレンジの場を提供する自治体、組織を越えて多方面で活躍する方と共に、社会をよりよく変えていくための個人の活動、働き方やキャリア、組織の仕組みについて問題提起を行います。

パブリックリレーションズを今こそ考え直す

荒木 社会をよりよく変えていくには、官・民・市民社会という3つの領域(トライセクター)の連携が欠かせません。しかし、この連携を阻む「壁」があります。例えば、中央官庁と民間企業では同じイシューに関わっていても目的や利害が違うかもしれませんし、あるいは新しい組織と伝統的組織のぶつかりもあるかもしれません。そこで今回は、自らが「ハブ」となり、トライセクターの連携を促す活動をされているお三方をお呼びしました。経済産業省出身で、現在は官民連携を主事業とするPublink代表の栫井誠一郎さん。100個の新産業創造を目指すSUNDRED、公的起業支援拠点であるK-NIC、宇宙産業スタートアップの天地人という3足のわらじを履き、組織を越境する働き方を実践する上村遥子さん。そして、埼玉県秩父郡横瀬町役場にて企業や個人が自分のアイデアで町づくりを実践するプラットフォーム「よこらぼ」を担当している田端将伸さんです。三菱総研からは荒木と山口の2名が議論に参加します。まずは率直にうかがいたいと思います。目的や利害・関心が異なる官・民・市民社会はどうすれば連携できるでしょう?
栫井 1つは、お互い「個人」として向き合うことが大事だと思います。例えば、官僚に「ロボットみたいに冷たい人たち」というイメージを持っている人がいますが、実際は官僚も人間、喜怒哀楽も叶えたい夢もあります。昨年、官と民が新しい政策と事業の案を持ち寄り、壁打ちしあうインキュベーションプログラムを立ち上げました。その時、いきなり固い議論をするのではなく、「最近、居酒屋めぐりにハマっていて」みたいな軽い話から始めてもらったんですね。すると、同じ人間どうし、信頼して話せる空気が生まれた。こんなふうに官と民がそれぞれ個人として向き合い、コミュニケーションできる機会を作ることが最初の突破口かと。
山口 私はトライセクター連携について、皆さんより少し悲観的に見ているところがあるかもしれません。SNSに象徴されるように自分が関心のないことは簡単にシャットダウンできる時代です。一方では社会課題が複雑化していて、理解が難しい。パブリックリレーションズをもう一度考え直さないといけない時代であるのは確かです。しかし、個人化が進行する中、皆で手を取り合う、そんなことが本当にできるのか。それはアクセルを踏みながらブレーキを踏むようなものではないのかと思えてならないのです。端的に言って、こうした異分野連携が、意識高い系の人たちによる知的な遊びに見え、引いてしまう人もいると思います。どうしたら、こうした連携を誰にとっても当たり前のこととして、社会に根付かせることができるのでしょう。その点、私が「よこらぼ」を好きなのは、異分野連携を誰にとっても当たり前のものにすること、徹底的にハードルを下げることに注力されているからです。
田端 通常の官民連携は行政が困っている課題を提示し、民間から解決策を募集するというもの。「よこらぼ」は逆で、個人や企業にチャレンジしたいことを行政に提案してもらいます。「よこらぼ」が始まって4年ですが、提案件数は155件、採択は90件。これだけの数が集まるのは、山口さんが言う通り、「よこらぼ」は誰でも応募できるからです。よく「横瀬町って節操ないよね(笑)」と言われるのですが、そのぐらいハードルを下げて誰もがチャレンジしやすくしています。実を言えば、僕は無理な連携させようと思っていません。横瀬町のような小さな田舎町でさえ、町づくりに興味を持たない町民が必ずいます。そこで無理に町民全員に町づくりに興味を持ってもらおうと労力を費やすぐらいなら、誰にでもチャレンジする機会を用意して「関わりやすさ」を提供するほうがいいと思うのです。
上村 私が所属するSUNDREDは「100個の新産業を共創する」と掲げています。これだけ聞くとすごく意識高そうに思われるかもしれません。でも本来、産業というものはエンドユーザー含めて誰もが関わるものですよね。そこで大切なのは、意識高そうな話も柔らかく噛み砕いて、自分ごとにしてあげること。各セクターの言葉を通訳、翻訳する役割の人間が必要だと思っています。
山口 各セクターの言葉を柔らかく翻訳することで、人々が連携できるようになるということですね。その翻訳の仕方なのですが、「オーダーメイド」が必要になりませんか?例えば、都市に暮らしている人は地域で暮らす人に比べ、利己的に自己の利益を追求する傾向が強いかもしれない。そういう人々に「もっと公共心を持って、ボランティアをしましょう」と訴えても、なかなか響かないと思います。むしろ、自己の利益を追求していたら、「あれ、いつの間にか公共の利益の役に立っていたぞ」と思えるような環境をデザインすることも必要ではないか。こんなふうにモチベーションのくすぐり方が地域によって、また一人ひとりによっても違うとなると、翻訳もオーダーメイドにならざるを得ないと思います。上村さんはそのあたり、「大変だな」と思うことはないですか。
上村 オーダーメイドが必要、すごくよく分かります。でも例えば、都市に暮らす人が地域に暮らす人のモチベーションのあり方を理解するのが難しいなら、そこにこそ私たちのような、両者を行き来する翻訳者の役割があるはず。慣れていくしかないと思っています。私自身はと言うと、そんなに大変さは感じていません。公と民を行き来する経験の中で、公と民では見ているものも出来ることも違うと分かりました。お互いうまく補完し合うやり方を考えていけばいい。なので、私は案外ポジティブですね。
栫井 官と民をつなげる、特に霞が関と民をつなげるのは正直めちゃめちゃ大変です。官僚は一日中すごく忙しい。例えばベンチャー経営者に「厚労省の人を紹介して」と気軽に言われた時、ノープランでただアポをとってもお互いのニーズが掛け違う不幸な時間にしかなりません。官僚から1時間もらうには、官僚のニーズにも応えることのできる価値ある1時間にする。つまり、官民のwin-winにつながる設計を事前にしておくことが重要です。一方でそれが大変だからと言って、官・民がこれまでつながってこなかったことは政策、ビジネスサイド両面にとって大きな機会損失になっています。以前よりは組織を越えて行動しやすくなっていますし、個人がポジティブにつながり共鳴することで、組織を越えたオープンイノベーションがどうやら重要そうだという社会の雰囲気も出てきました。大変だけど、だからこそ今がチャンスなのだと私もポジティブに捉えています。

セクターをつなげるハブ人材はどこにいる?

荒木 登壇されている皆さんがまさにそうだと思うのですが、トライセクター連携のハブ、橋渡しになる人はどこにいるのでしょう?そのような人のキャリアパスは?
栫井 僕が霞が関と企業のハブとして活動する中で思うのは、橋渡しを片手間や有志で活動している人はいますが、本業として橋渡し専業で活躍している人はほぼ見かけません。省庁の人などは毎日終電まで本業で働いて、それでもエネルギーが残っている人が内発的動機にもとづいて、土日などで頑張って活動してつながっている印象です。僕や上村さんはそういう想いのある人たちをつなげてサポートして、大きなうねりを作っていく役割。もっと橋渡し専業の人が増えるべきだろうと思います。
上村 私は今、川崎市と川崎市産業振興財団、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が組み、研究開発系ベンチャーを支援するK-NICという起業家拠点にも関わっています。なぜ自分が行政に呼ばれたかと考えると、おっしゃる通り公的機関の人たちが多忙だからでは。そこで、民間の力を使うのはすごくアリだと思います。一方で私が期待しているのは副業やパラレルワークで関わる人たちです。自分の想いもあり、また領域をまたぐことに実利的なメリットもある人たちですね。
田端 公務員の立場である自分から見ても、確かにセクターを越えるのはかなり難しいと感じています。ただ、セクターどうしをつなげるコラボレーターみたいな役割なら、行政でもやりやすいかもしれない。
栫井 そうですね。田端さんがおっしゃるように、行政にいて民間との連携をコーディネートする部署にいる人、あるいは民間にいて対行政の部署にいる人、そういう人がセクター間をつなげる、通訳的な役割を担っているパターンがあります。
荒木 上村さんのように組織に属しながら様々な場所で活躍したいと思っている人は増えているはず。それでは、組織の側はそうした人材のキャリアをどう受け入れ、支援できるでしょうか。
上村 私が3足のわらじを履いた時に感じたのは、受け入れてくれた組織の柔軟さですね。うちではコレをやって下さい、後はのびのび好きにやって下さいという感じ。「雇用するからには、あなたのスキルも人脈も独占したい」という考え方ではありませんでした。セクターを越える人を受け入れるには、そうした組織体制が必要ですし、逆に言えば、セクターを越えられる人はそんな組織に集まっていきます。
栫井 同意見です。若い人ほど組織の歯車になることに価値を感じていません。組織が自分を囲い込み、主体性を奪おうとすると、それを察知して辞めていきます。今、大企業に就職した優秀な若者がガンガン辞め、スタートアップでは優秀な人がどんどん活躍のフィールドを広げていく現象が起きている。大企業の経営者はそこに危機感を持ってほしいです。
田端 私はどちらかと言うと組織が変わるのを待つより、個人の想いを横瀬町が一緒になって育んでいきたいと思っています。「よこらぼ」で一緒にプロジェクトを動かしていたのに、諸事情で方向転換してしまう組織もあります。その時、自分がやりたいことだからとわざわざ組織を辞めて、プロジェクトに関わり続ける、そんな人が増えてきました。では、行政の側はどうかと言うと、はじめは「なんで民間の人たちを受け入れなくてはいけないのか」という反発もありました。でも4年も「よこらぼ」を続けていると、それも当たり前になって民間を受け入れる土壌ができた。今はやり続けたことに価値を感じているところです。

自分が普段いるテリトリーの外側へ

 荒木 視聴者からも質問を預かっています。「すでに個人活動をしている人、コミュニティの多くは、これまでの体験から既存産業、既存組織と組むことに拒否感を持っているように感じます。この断絶を解消するためには、受け入れる組織の仕組み整備だけでは不十分。具体的にどのような施策が考えられるでしょうか?」
栫井 大企業で新規事業の開発に関わる若手にこういう思いを持っている人が多い印象です。せっかく事業計画を作っても、経営の側にそれを許容するキャパがなかったりする。経営層の頭が固い場合、会社の外で事業を育てるぐらいのことをしないと、なかなかうまくいきません。
上村 大企業の「出島」機能ですね。本社と離れた所にのびのびと新規事業に関われる場所を作ると。私自身は既存産業、既存組織にネガティブな思いがあるかと言うと、必ずしもそうではありません。むしろ、そんな組織も「うまく使ってやろう」という気持ち。とは言え、嫌われたままでも話が進みません。私は企業が変わるしかないと思っています。社会のためを考え、企業があるべき姿に変わる。その勇気を持ってほしい。
山口 横瀬町は、民間出身の町長が就任してから変わったのでは?
田端 確かに横瀬町は現町長になって一気に変わりました。「これまでと同じことやっていても変わらない」とメッセージを送り続けたことで、職員の意識が変わった。簡単に言うとトップダウンですが。
上村 確かに日本人は危機感を訴えた方が動きそうです。世界の大手企業がこれだけドラスティックに変化している時代なのだから、日本企業も変わらなくてはと。それこそ政府が「このままの日本ではいけない」と発信することで企業も変わるのではないでしょうか。
栫井 大きな企業の上層部ほど「もっとオープンな取り組みをしましょう!」とポジティブな正論を言っても響かない。むしろ、「これまでイノベーションだ、何だと号令をかけるばかりで何も生まれていないですよね?グローバルの動きに立ち遅れていますよね?」と危機感を煽るほうがいいというわけですね。あるいは、経営層にとってのレジェンドに話をしていただく機会を作るとか。例えば、早稲田大学の入山章栄先生のような方です。
上村 入山先生もそうですし、より若い世代の中にも声を上げて動いている人たちがいます。彼らの話を経営者に聞いてもらう機会を作ると効くはず。自分に興味のあるものしか目に入らなくなってしまっている時代です。新しいことに触れるには、自分が普段いるテリトリー外の人たちの役割が大きくなります。
田端 場違いな意見かもしれませんが、僕は経営層については「変わらない」イメージを持っています。そこはもう諦めて、個人にどんどん勝負してもらい、その結果を経営層に見せつけるようにしたら面白いかなと思いました。
上村 そのアプローチの方が本当はいいですよね。パッションを持った個人が先に盛り上がり、それを見た経営層もつられて手を貸すようになる。トップダウンで動くよりもそうやって皆が一緒に楽しみながら変わっていく方が私は健全だと思います。それができている横瀬町が羨ましいです。
荒木 残念ながら、座談会終了のお時間が来てしまいました。最後にどなたか、言い忘れたことがあれば。
田端 横瀬町はどんな人でもチャレンジできる場を用意しています。何かチャレンジしたいと思っている方、全員、横瀬町に提案して下さい。それだけです!
荒木 田端さんに宿題をいただきました(笑)。私も何か考えたいと思います。みなさん、今日は本当にありがとうございました。
  • Moderator: Anna ARAKI(Social Safety and Industrial Innovation Division,MRI)
  • Speaker: Seiichiro KAKOI(CEO, Publink Inc.)
  • Speaker: Yoko KAMIMURA(Chief Evangelist/ Community Designer, SUNDRED Corporation)
  • Speaker: Masanobu TABATA(Chief of Encouraging the Challengers, the Planning and Finance Division, Yokoze Town)
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